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ADHD

ADHDとは

ADHD(注意欠如・多動症:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、生まれつきの脳の働き方の特性によって、

  • 注意を続けることがむずかしい
  • 思いつくとすぐ行動してしまう
  • じっとしているのがつらい

といった状態があらわれる発達の特性のひとつです。

学校生活や友だち関係、家庭での生活に影響が出ることもありますが、早めに気づき、環境の工夫やサポートを受けることで、その子らしい力を発揮しながら成長していくことができます。

子どものADHDの主な特徴

子どものADHDは、年齢や環境によって、目立ち方や強さが変わります。代表的な特徴は、次の3つに分けて考えられます。

  • 不注意(うっかりさん)
  • 多動性(そわそわちゃん)
  • 衝動性(やっちゃったくん)

それぞれの特徴は、次のチェックリストをご覧ください。

ADHDを早期に気づくためのチェックリスト

次のような行動が、同じ年齢のお子さんと比べて目立つ/繰り返し見られる場合は、専門機関への相談を考えてみてください。

不注意のサイン

  • 宿題・持ち物をよく忘れてしまう
  • 最後まで話を聞く前に動き出してしまう
  • 課題や遊びを最後までやりとげるのがむずかしい
  • 授業中や会話の途中で、注意がそれてしまうことが多い

多動性のサイン

  • 授業中に席を立つ、教室内を歩き回る
  • 静かに遊ぶことが難しく、声や動きが大きくなりがち
  • いつもそわそわしていて、手足をよく動かしている
  • 「止まっていられない」「エンジンがかかったように動いている」ように見える

衝動性のサイン

  • 順番を待つのが苦手で、割り込んでしまう
  • 思いつきで行動して、あとからトラブルになる
  • 先生や友だちの話をさえぎって話し始めてしまう
  • 感情のコントロールが難しく、かんしゃくを起こしやすい

早期発見の重要性

ADHDの特徴は、4〜6歳ごろから少しずつ目立ち始めることが多いです。特に、小学校に入学して集団生活が本格的に始まると、

  • 「落ち着きがない」
  • 「授業に集中できない」
  • 「忘れ物が多い」

といった様子が目立つようになり、周囲が気づくことが増えます。このような困りごとに早めに気づき、対応できると、

  • 学校生活や友人関係でのつまずきを減らす
  • 「自分はダメだ」という気持ち(自尊心の低下)を防ぐ

ことにつながります。

一方で、ADHDの特性が気づかれないまま長く続くと、次のような「続けて見られる問題(二次障害)」が起こることがあります。

  • 不登校
  • 自尊心の低下・自己否定感
  • 不安が強くなる、不安障害
  • 気分の落ち込み・うつ状態

これらの二次障害は、ADHDそのもの以上に、お子さんの心の成長や将来に影響することがあります。そのため、保護者や先生が「もしかして…?」というサインを早めにキャッチし、専門医に相談することがとても大切です。

ADHDの診断

ADHDの診断は、医師が次のような情報を総合的にみて判断します。

  • 保護者や先生からの聞き取り(家庭や園・学校での様子)
  • 診察室での行動の様子(衝動性・多動性・不注意の傾向)
  • 必要に応じた心理検査・発達検査(知能検査、行動のチェックシートなど)

診断には、DSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-11(世界保健機関)といった国際的な診断基準が使われています。診断は、お子さんが適切な治療や支援を受けていくためのステップの1つであり、「お子さんの日常生活でどんな困りごとがあるか」を一緒に整理していくことが大切です。

また、ADHDとよく似た特徴が出る

  • ASD(自閉スペクトラム症)
  • LD(学習障害)
  • チック症

などとの区別も重要です。

ADHDとこれらが一緒にある(併存する)場合も多く、その組み合わせによって、支援の方法や優先順位が変わってきます。そのため、専門医による丁寧な評価が欠かせません。

ADHDの治療・支援の方法

ADHDの治療は、

  1. お薬で症状をやわらげる方法
  2. 環境や接し方を工夫する方法

を、お子さんの状態や年齢に合わせて組み合わせて行うのが一般的です。「どの方法がよいか」は、医師や専門家と相談しながら一緒に決めていきます。

1. 薬物療法

日本で小児のADHDに使われる代表的なお薬には、次のようなものがあります。

  • メチルフェニデート(コンサータ®)
  • アトモキセチン(ストラテラ®)
  • グアンファシン(インチュニブ®)
  • リスデキサンフェタミン(ビバンス®)

これらのお薬は、

  • 注意を向けやすくする
  • 衝動的な行動をおさえやすくする
  • 落ち着いて行動しやすくする

ことで、学校や家庭での生活を送りやすくすることが期待されます。

※ お薬は必ず必要というものではなく、症状の程度や生活への影響を見ながら、医師が「使った方がよいかどうか」を一緒に考えます。

2. 心理社会的支援

お薬だけに頼るのではなく、行動や環境の工夫もとても大切です。

  • 行動療法
    →できた行動をしっかりほめて伸ばし、困った行動を少しずつ減らしていく方法
  • 親子トレーニング
    →親御さんが声かけや関わり方のコツを学び、家庭で実践していくプログラム
  • 視覚的な工夫
    →スケジュール表・やることリスト・ごほうびシステムなど、「見える形」で行動を助けるしくみ

3. 学校での配慮

学校での理解と協力も、とても大きな支えになります。

  • 席を先生の近くや、刺激の少ない場所にする
  • 課題を小さなステップに分けて提示する
  • 小さな成功でもしっかりほめて、達成感を積み重ねる

「子どものがんばりが伝わる環境づくり」がポイントになります。

4. 家庭でできるサポート

日常生活の中でも、次のような工夫が役に立ちます。

  • 生活リズムを整える
    →睡眠・食事・運動の時間をできるだけ一定にする
  • 勉強は短時間集中で
    →「10分やって5分休憩」など、区切って行う
  • 指示はシンプルに
    →一度に1つずつ、短く具体的に伝える
  • 小さな成功をたくさんほめる
    →「できた!」を積み重ねて、自信を育てる
  • 失敗を責めない
    →「どうすれば次はうまくいくかな?」と一緒に考える姿勢を大切にする

ADHDの支援は、「薬さえ飲めばよくなる」というものではありません。

環境の工夫・大人の理解・子どもの強みを伸ばすサポートがそろうことで、お子さんの力がより発揮されやすくなります。

子どものADHDに関するよくあるご質問(FAQ)

ADHDはしつけや育て方が原因で起こるのですか?

いいえ、そうではありません。ADHDは、脳の生まれつきの働き方の特性と関係しており、親のしつけや育て方のせいで起こるものではありません。「しつけ不足」と誤解されがちですが、その考えはお子さんや保護者の方を余計に苦しめてしまいます。むしろ、特性を理解し、周りが関わり方を工夫していくことで、お子さんは安心して力を発揮しやすくなります。

ADHDは何歳くらいから分かりますか?

多くの場合、4〜6歳ごろから特徴が目立ち始めます。特に、小学校入学後に

  • 集団生活でのルールが守りにくい
  • 授業についていくのが大変
  • 忘れ物がとても多い

などの困りごとが見えてきて、気づかれることが多いです。幼児期は「元気な性格」との区別がつきにくいため、家庭・園・学校など複数の場面で同じような特徴が見られるかが判断のポイントになります。

ADHDとただの「やんちゃ」とはどう違うのですか?

大きな違いは、

  • 特徴が長い期間続いているか
  • 日常生活や学習に支障が出ているか

という点です。ただ元気なだけの「やんちゃなお子さん」とは違い、ADHDでは

  • 忘れ物や提出物の遅れが極端に多い
  • 授業についていけず、成績や自信に影響する
  • 友だちとのトラブルが繰り返し起こる

などのために、お子さん自身が「つらさ」を感じていることが多く、その場合は医学的な評価が役に立ちます。

ADHDは大人になったら治るのですか?

成長とともに目立たなくなる部分もありますが、特性が完全になくなるというより、大人になってからの工夫や環境調整で、「困りごとを減らしていく」と考えたほうが近いです。

  • 自分の特性を理解する
  • 自分に合った仕事や学習スタイルを見つける

ことで、社会の中で力を発揮している大人もたくさんいます。

「治る/治らない」というより、上手に付き合いながら、強みを活かしていく特性とイメージしていただくとよいかもしれません。

ADHDとASD(自閉スペクトラム症)や学習障害はどう違いますか?

それぞれの中心となる特徴は次のように違います。

  • ADHD:注意力・衝動性・多動性の特性
  • ASD:対人関係やコミュニケーションの特性、こだわりの強さ
  • LD(学習障害):読み・書き・計算など、特定の学習分野のむずかしさ

ただし、ADHDとASDやLDが一緒にみられるお子さんも少なくありません。組み合わせによって、必要な支援や工夫の仕方が変わるため、専門医による丁寧な評価が大切です。

子どものADHDは薬を飲まなければ治りませんか?

薬は「治す薬」というより、症状をやわらげ、生活しやすくするための手助けです。すべてのお子さんに必ず必要というわけではなく、

  • 行動療法
  • 家庭や学校での工夫

だけで大きく改善するケースもあります。薬を使うかどうかは、症状の強さや生活への影響をふまえ、保護者の方と医師がよく話し合って決めていきます。

ADHDの子どもに合った勉強方法はありますか?

ADHDのお子さんには、次のような学習スタイルが役立つことが多いです。

  • 「短時間+休憩」をくり返す(例:10分集中して5分休む)
  • 色分けやイラスト、チェックリストなど、視覚的に分かりやすい教材を使う
  • 課題を小さなステップに分け、「できた!」を積み重ねる

大切なのは、達成感や成功体験を増やすことです。「できた」が増えるほど、学習意欲や自信も育っていきます。

ADHDの子どもは学校生活にどのような困難がありますか?

よく見られる困りごとは次のようなものです。

  • 授業中、集中が続かず周りが気になる
  • 忘れ物や提出物の遅れが多く、先生に注意されやすい
  • 衝動的に言葉や行動が出て、友だちとのトラブルになる

これらは「本人の努力不足」ではなく、特性によるものです。教師や周囲の理解により、

  • 席の位置を工夫する
  • 課題を細かく分けて提示する
  • できた点を見つけて褒める

といった配慮をしてもらえると、お子さんが力を発揮しやすくなります。

ADHDかもしれないと思ったら、どこに相談すればいいですか?

まずはお近くの小児科に相談されることが多いです。必要に応じて、

  • 児童精神科
  • 発達外来
  • 発達支援センター
  • 教育相談機関

などを紹介されることもあります。早めに相談することで、不登校・自尊心の低下・うつ状態などの二次障害のリスクを減らすことができます。

ADHDの子どもが持つ「強み」にはどんなものがありますか?

ADHDのお子さんには、次のような素敵な強みがみられることが多いです。

  • 興味のあることにぐっと集中できる力
  • アイデアが豊かで、発想が柔軟な創造力
  • エネルギッシュで、すぐに行動にうつせる行動力

適切な支援と環境が整えば、これらの特性は、学業や将来の仕事、趣味の場面で大きな力になります。 DHDは「欠点」だけでなく、その子ならではの才能のタネも含んでいる特性ととらえていただけるとよいかもしれません。