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自閉症スペクトラム障害(ASD)

自閉症スペクトラム障害(ASD)とは

自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、人との関わり方や、感じ方・こだわり方に特徴がある発達の状態です。

以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」などいくつか違う名前で呼ばれていましたが、今はそれらをまとめて、ひと続きの幅のある特性=スペクトラムとしてとらえています。

特性の表れ方は一人ひとり違い、得意なこと・苦手なこともさまざまです。たとえば、

  1. 雑談や初対面の人との会話は苦手だけれど、好きな分野の話になると夢中で話せる
  2. 予定の変更がとても苦手で、急な変更があると強い不安や混乱が出てしまう

など、「その人ならではの個性」としてあらわれます。

自閉症スペクトラム障害の原因

ASDの原因は「これだけ」と決められるものではなく、いくつかの要因が重なって起こると考えられています。

背景には、脳の発達のしかたのちがいがあります。人との関わり方、ことばの理解、音・光・触感などの感じ方に関わる脳の働きが、ほかの人とは少し違うパターンを示すことが分かっています。

また、遺伝的な要因が関係していることも知られています。家族のなかにASDやそれに近い特性を持つ方がいる場合、似た特性があらわれやすくなることがあります。ただし、

  1. 「遺伝する = 必ずASDになる」という意味ではなく、
  2. 生まれ持った要因と、生まれてからの環境の両方が関わって、特性の出方が決まっていく

と考えられています。

と妊娠中や出産前後の母体の健康状態など、環境の影響も一部関わっているのではないかと研究されていますが、 「これが原因です」と言い切れるものは、今のところありません。

とここでいちばん大切なのは、ASDは親の育て方や本人の努力不足のせいではないということです。脳の特性として、生まれつき持っているものであり、「誰かのせいで起こったわけではない」という理解が、ご本人やご家族を支えるうえでとても大事です。

「対人関係」と「こだわり」が二大特徴

自閉症スペクトラム障害(ASD)には、大きな特徴の柱が2つあります。

人との関わりや会話の難しさ

ひとつめは、人との関わり方や会話の難しさです。

  1. 表情・しぐさ・声のトーンから相手の気持ちを読み取るのがむずかしい
  2. 会話が一方通行になりやすく、相手の興味に合わせて話題を変えるのが苦手
  3. 冗談や遠まわしな表現が分かりにくい

といった理由から、学校や職場で誤解されたり、孤立しやすくなってしまうことがあります。「人に興味がない」わけではなく、どう関わればいいか分からずに困っていることも少なくありません。

強いこだわりや興味のかたより

もうひとつは、強いこだわりや興味のかたよりです。

  1. 自分なりのルールや手順に強い安心感をおぼえる
  2. スケジュールや段取りが急に変わると、とても不安になったり混乱したりする
  3. 特定の分野(電車・恐竜・ゲーム・数字など)に深く興味を持ち、その分野について豊富な知識を身につける

こうした特性は、生活の中で困りごとにつながることもありますが、見方を変えると、とても大きな強みや才能として発揮されることも多くあります。

検査と診断、治療について

自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断は、ひとつの検査だけで決まるものではありません。

  1. ご家族からの聞き取り(乳幼児期の様子・日常生活の様子など)
  2. 発達の経過やことば・遊び方の確認
  3. 診察場面での行動の観察
  4. 必要に応じた心理検査(知能検査や、対人関係・こだわりの傾向を見る検査 など)

といった情報を組み合わせて、専門の医師が総合的に判断します。乳幼児健診で「気になるかも」と言われ、そこからつながるケースもあります。

最近は、診断や支援の方法にも新しい流れが出てきています。たとえば、

  1. 表情や行動のパターンをコンピューターが読み取り、診断を助ける研究
  2. 脳の画像検査(MRI)やAI(人工知能)を使って、ASDの特徴を見つけようとする研究

などが進められています。まだ研究の段階ですが、今後の診断や支援の精度が高まることが期待されています。

ASDそのものを「治して消す」お薬はありませんが、生活を送りやすくするための支援や治療法はたくさんあります。

  1. ソーシャルスキルトレーニング(人との関わり方を練習するプログラム)
  2. 認知行動療法(気持ちのとらえ方・行動のパターンを一緒に整理していく方法)
  3. 安心して通える療育・通所施設など

を通して、人との関わりや自分の気持ちの整理、生活の工夫などを少しずつ身につけていきます。不安や気分の落ち込み、かんしゃくなどがとても強い場合には、お薬やカウンセリングが助けになることもあります。

小児精神科で受けられる支援

小児精神科は、自閉症スペクトラム障害(ASD)のお子さんとご家族が、安心して生活できるようにサポートする専門の窓口です。

診断の段階では

  1. 心理検査や発達検査
  2. 診察室やプレイルームでの行動観察

などを通して、お子さんの特性を丁寧に見ていきます。必要に応じて、入院して体調や生活全体を見ながら診断を進めることもあります。

治療・支援の段階では、

  1. 個別の療育(ことば・対人関係・日常生活のスキルを育てる)
  2. ソーシャルスキルトレーニング(SST)
  3. 認知行動療法(CBT)

などを組み合わせて、コミュニケーション力や生活の工夫を一緒に身につけていきます。不安や落ち込みが強いときには、お薬や心理的なサポートが役立つこともあります。

また、学校や地域の支援機関と連携し、

  1. 学校での配慮
  2. 放課後等デイサービス・福祉サービスとの連携

など、生活の場全体でサポートが続くように整えていくことも重要です。

ご家族への支援も大切にされています。

  1. 接し方や環境の工夫を学ぶ家族向けのプログラム
  2. ご家族自身の気持ちを支えるカウンセリング
  3. 同じ立場の保護者同士が出会えるサポートグループ

などを通して、「一人で抱え込まなくてよい」体制づくりが進められています。近年は、医療・教育・福祉が連携した相談体制も全国的に整えられつつあり、以前よりも支援につながりやすくなってきています。

ご家族にできるサポート

ご家族が日常の中でできる支えは、お子さんにとってとても大きな力になります。

  1. お子さんの「こだわり」や「得意なルール」を理解し、できる範囲でその世界観を尊重する
  2. 安心できる生活リズム(起床・就寝・食事など)を一緒に整える
  3. 予定が変わるときは、前もって伝えたり、絵や文字で知らせて心の準備ができるようにする

といった工夫は、不安を和らげる助けになります。

また、

  1. がんばったことや得意なところを見つけて言葉にして伝える

ことは、自信や安心感につながります。

感覚に敏感な場合は、

  1. 音(テレビの音量・生活音)
  2. 光(蛍光灯・窓からの光)
  3. 衣服のタグや肌ざわり

など、苦手なものをできるだけ減らすことで、過ごしやすさが大きく変わることがあります。ご家族自身も、一人で抱え込む必要はありません。相談窓口や支援センター、保護者の会などを利用して、安心して話せる相手や仲間とつながることがとても大切です。

自閉症スペクトラム障害(ASD)に関するよくあるご質問

ASDは治る病気ですか?

ASDそのものを完全になくすお薬や治療法は、現時点ではありません。ただし、療育やトレーニング、カウンセリングなどを通じて、

  1. 困りごとを小さくしていく
  2. 生活をスムーズにし、ご本人らしいペースで生活できるようにしていく

ことは充分に可能です。

親の育て方が原因なのでしょうか?

いいえ、違います。ASDは、脳の発達の特性によって生じるもので、育て方やしつけが原因ではありません。ご家族の愛情や関わり方がASDを「つくる」ことはなく、むしろ、ご家族の支えこそが、お子さんにとって大きな安心材料になります。

小さいうちに気づくことはできますか?

はい、可能です。乳幼児健診や、保育園・幼稚園での様子から気づかれることがあります。たとえば、

  1. 目が合いにくい
  2. 名前を呼んでも反応しにくい
  3. 言葉の発達がゆっくり
  4. 集団の中に入りにくい

といったサインが見られることがあります。気になる点があれば、「様子をみるだけ」で抱え込まず、相談してみることが大切です。

どこに相談すればいいですか?

まずは、

  1. 小児科
  2. 児童精神科
  3. 発達障害支援センター

などにご相談ください。お住まいの地域の保健センターや相談窓口でも、支援につながる情報を教えてもらえます。

学校生活でのサポートはありますか?

あります。

  1. 特別支援教育
  2. 「合理的配慮」としての席の配置や教材の工夫

など、学校側と話し合いながら、お子さんに合った学び方を一緒に考えていくことができます。「どこまでお願いしてよいか分からない…」という場合も、小児精神科や支援センターが間に入って調整をお手伝いすることがあります。

大人になってから診断を受けることもありますか?

はい、あります。子どものころに診断を受けていなくても、

  1. 人間関係がうまくいかず生きづらさを感じる
  2. 仕事で同じようなつまずきが続く

といった理由から相談し、大人になってからASDとわかる方も増えています。診断によって、「これまでの生きづらさの理由が分かった」と感じる方も少なくありません。

どんな療育や支援がありますか?

お子さんの特性に合わせて、たとえば次のような支援があります。

  1. ソーシャルスキルトレーニング(SST)
  2. 認知行動療法(CBT)
  3. 言語療法(ことばのトレーニング)
  4. 作業療法(生活や遊びの中での練習)

ご家族も一緒に取り組むことで、より効果が高まりやすくなります。

お薬は必ず使うのでしょうか?

いいえ、必ずしも必要ではありません。ASDそのものを治す薬はありませんが、

  1. 不安がとても強い
  2. 眠れない日が続く
  3. かんしゃくや強いイライラが頻繁に起こる

といった症状がある場合に、医師が必要と判断してお薬を検討することがあります。使うかどうかは、ご家族とよく相談しながら決めていきます。

家でできるサポートにはどんなものがありますか?

  1. 予定を前もって伝え、見通しが持てるようにする
  2. 一日の流れ(起床・食事・就寝など)をできるだけ同じリズムにそろえる
  3. 得意なこと・好きなことを伸ばせる時間をつくる
  4. 無理に変化を迫らず、「安心できる環境」を優先する

といった工夫が役立ちます。

家族自身が疲れてしまったときはどうすればいいですか?

ご家族の心と体の元気も、とても大切です。

  1. 発達障害支援センター
  2. 家族会・保護者のサポートグループ
  3. カウンセリング

などを利用して、一人で抱え込まないことが何より大事です。「つらい」「しんどい」と感じたときこそ、安心して話せる場や専門家につながっていただければと思います。