はじめに
睡眠は、子どもの心と体の成長を支える大切な土台です。
「なかなか寝つけない」「夜中に何度も起きる」「朝どうしても起きられない」などの睡眠の困りごとは、単に生活リズムの問題ではなく、
- 不安やストレス
- 自閉スペクトラム症・ADHD などの発達特性
- 自律神経の乱れ(起立性調節障害含む)
- 学校生活の負担
- ぜんそく・皮膚疾患・てんかん など身体の病気
と深く関係していることがよくあります。
お子さんの場合、そのまま
- 学校へいけない・遅刻してしまう
- 朝の体調不良
- 日中の集中力低下
- イライラ・落ちつかなさ
- 生活リズムの大幅な乱れ
として生活に大きく影響しやすいのが特徴です。
よくみられる睡眠の症状
- 布団に入ってもなかなか眠れない
- 夜中に何度も起きる
- 一度起きると再入眠に時間がかかる
- 早朝に覚醒してしまう
- 夜更かしが続き昼夜逆転している
- 眠りが浅く、日中の眠気が強い
- 朝起きられず、頭痛・腹痛が出やすい
睡眠の問題は “見えにくい心と体のSOS” の場合もあります。 背景を丁寧に確認することが大切です。
小児の睡眠障害に関連する疾患
睡眠の問題の多くは、単独で起こるわけではありません。以下の疾患・特性との関連がよくみられます。
① 不安の強さ・不安障害
- 寝る前に不安が高まり、寝つけない
- 「怖いことを考えてしまう」
- 一人で寝られない
- 夜中に目が覚めやすい
不安が強い子は、睡眠時の静かな環境で“考えが止まらなくなる”ことが多いです。
② 自閉スペクトラム症・注意の特性
- 生活リズムの切り替えが難しい
- 光・音・温度などの感覚過敏
- こだわりやルーティンがずれると寝つけない
- メラトニンの分泌リズムが乱れやすい
③ 起立性調節障害(特に思春期)
- 朝起きられない
- 午前中の強い倦怠感
- 夜になると元気になる
- 昼夜逆転的な生活になりやすい
睡眠障害と誤解されやすいですが、自律神経の問題が関係します。
④ 夜驚症(やきょうしょう)・夢遊症
- 夜中に突然叫ぶ、泣く
- 顔がこわばる
- 起こしても反応しない
- 朝になると本人は覚えていない
多くは成長とともに改善しますが、頻回な場合は評価が必要です。
⑤ 過眠症(眠りすぎてしまう)
- 日中に耐えられない眠気
- 長時間寝ても眠気が取れない
- 思春期に発症することが多い
まれにナルコレプシーなどの疾患が隠れていることもあります。
⑥ てんかん(特に睡眠時発作)
- 夜間に体が固まる・動く
- 寝ぼけや夜驚症と区別が難しいことがある
睡眠の観察が診断に役立ちます。
睡眠障害の原因
小児の睡眠障害は、次の要因が複雑に絡み合って起こります。
- 生活リズム・習慣
- 睡眠環境(光・音・気温・スマホ使用など)
- 不安・ストレス
- 発達特性(感覚過敏・こだわり)
- 自律神経の乱れ
- 思春期のホルモン変化
- 基礎疾患(喘息、皮膚疾患、てんかんなど)
“性格”や“怠け”の問題ではありません。
睡眠障害の診断と評価
睡眠障害の評価では、以下を丁寧に確認します。
- 就寝時刻・起床時刻
- 寝つくまでの時間
- 夜間覚醒の有無
- 日中の眠気・集中力
- 学校生活への影響
- スマートフォンやゲームの使用状況
- 不安・ストレスの有無
- 発達特性の有無
- 起立性調節障害・てんかんなどの評価
必要に応じて、睡眠記録(睡眠日誌)をつけてもらうことがあります。
睡眠障害の治療と支援
睡眠障害の治療は、生活リズムの調整・環境改善・心理支援が中心です。必要に応じて薬物療法を行う場合もあります。
よい眠りをつくる生活のポイント
- 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる
体内時計を整えるためには、休日も含めた「一定の睡眠リズム」が最も重要です。 - 寝る前の1時間は落ち着いた時間にする
スマホ・ゲーム・動画は強い刺激となり、眠りづらくなります。 読書・ぬりえ・軽いストレッチなど「静かな活動」に切り替えましょう。 - 朝の光を浴びる
起床後すぐに日光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜に眠りやすくなります。 - 食事・間食・カフェインに注意
夕食は寝る2〜3時間前までに。甘い飲み物やカフェイン(紅茶・緑茶・ココア・チョコレート)は控えめに。 - ベッドは「眠る場所」に
勉強・ゲーム・動画視聴をベッドで行うと、脳が「ベッド=活動する場所」と誤認します。 - 入浴は寝る1〜2時間前に
身体がゆっくり冷めていく過程で眠気が訪れます。 - 寝る前の不安や考えごとを減らす
気になることを書き出す、明日の予定を簡単に確認するなど「頭の整理」をすると安心して眠れます。 - 日中の軽い運動を取り入れる
散歩・外遊び・軽いスポーツは眠りの質を自然に高めます。
睡眠環境の調整
- 部屋の暗さ・静けさ・室温の調整
- 寝室から刺激の多い物を減らす
- 寝るまでのルーティン(読み聞かせ・ストレッチ)
不安やストレスへの介入
- 心配事の整理
- 認知行動療法的アプローチ
- リラクゼーション・呼吸法
発達特性への支援
- 見通しのあるルーティン作り
- 感覚過敏への配慮
- 行動の切り替えが苦手な子へのサポート
起立性調節障害への対応
- 起床後すぐの立ち上がりを避ける
- 水分・塩分摂取
- 運動療法
- 学校とのスケジュール調整
薬物療法
必要に応じて医師が慎重に判断します。睡眠薬が主ではなく、生活リズムや不安への支援が重要です。
ご家庭でできるサポート
- 寝る前のルーティンを決める
- ベッドでの動画視聴・ゲームは控える
- 睡眠のことで責めない
- 生活リズムを家族で共有
- 学校と情報共有して負担を調整する
- 本人の“眠れないつらさ”を理解する
睡眠障害のよくある質問
朝起きられないのは怠けではありませんか?
小児では、睡眠障害や起立性調節障害、不安の問題で朝起きられないことが多く、怠けではありません。
スマホやゲームが原因ですか?
睡眠を悪化させる一因になりますが、それだけが原因ではありません。不安・ストレス・発達特性・自律神経の問題など、複数の要因が絡みます。
寝かしつけてもすぐ起きてしまいます
夜驚症・不安・環境刺激などが影響している可能性があります。頻回なら相談が必要です。
どのタイミングで受診すべきですか?
以下の場合は受診をおすすめします。
- 3週間以上睡眠の問題が続く
- 朝の体調不良や遅刻が増えている
- 眠気で勉強が進まない
- 夜驚・夢遊・けいれん様の動きがある
- 起きられず学校生活に支障がある
