小児における統合失調症
統合失調症は、現実とのつながりが揺らぎ、思考・感情・行動に大きな変化が生じる病気です。大人に多い病気と思われがちですが、小学生以降から発症することがあり、思春期後半から増え始めます。
小児では、症状が“典型的な幻聴や妄想”としては現れにくいことがあり、不安・興奮・こだわり・学校不適応・睡眠障害・不穏 といった表面的な行動が目立ち、気づかれにくいことがあります。
小児特有の症状の出方
小児の統合失調症では、次のような症状がみられます。
思考のまとまりがなくなる
- 会話がつながらない
- 話題が急に飛ぶ
- 何を言っているのかわからない
- 「考えがぐるぐるする」と訴える
幻覚(ないものが見える・聞こえる)
妄想(事実とちがう考えが浮かぶ)
- 「誰かに見られている気がする」
- 「悪口が聞こえた」
- 「自分の考えが外に漏れている気がする」
- 幻聴が“声”ではなく、“音”や“気配”として感じられることもある
- 子どもは表現が乏しく、「なんか怖い」「変な感じ」とだけ言うことも多い
感情や行動の変化
- イライラ・興奮・怒りがコントロールできない
- 引きこもり・不登校
- ぼーっとして反応が遅い
- 以前好きだったことに興味を示さない
- 表情が乏しい
認知・学習の低下
- 宿題や授業が急にできなくなる
- 注意・集中力が著しく低下
- 生活リズムが崩れる
身体症状としてのサイン
- 不眠、昼夜逆転
- 食欲低下
- 不穏、落ち着かない
子どもの統合失調症は、大人のように幻覚や妄想がはっきり出ないことも多く、突然、不安が強くなる、疑い深くなる、これまでにない言動が増える、気分が不安定になるなど、“人が変わったように見える”変化から始まることがあります。そのため、性格や行動の急な変化は重要なサインになります。
統合失調症は鑑別がとても重要
子どもたちで、統合失調症とよく似た症状を起こすからだの病態が複数あります。特に 脳炎・てんかん・せん妄・発達障害・強いストレス反応 などとの鑑別が必須です。
① 抗NMDA受容体脳炎など「脳炎」との鑑別
統合失調症と最も誤診されやすい病態のひとつが、ウイルス性脳炎(インフルエンザやヘルペスなど)や自己免疫性脳炎(特に抗NMDA受容体脳炎)です。
脳炎が疑われる特徴
- 発症が“急激”(数日〜数週間)
- 発熱・頭痛・けいれんが先行する
- 意識の変動(ぼーっとする → 興奮)
- 言語の急激な崩れ
- 自律神経症状(発汗・心拍の乱れ)
- 異常運動(口部ジスキネジアなど)
- 抗精神病薬に対する過敏性(悪性症候群様の反応)
精神症状が目立っても、その背後に脳炎が隠れていることがあります。MRI、脳波、髄液検査などの神経学的評価が重要です。
② せん妄との鑑別
せん妄は、意識の揺らぎから一時的に混乱や幻覚が出る状態で、感染症や高熱、薬剤、環境変化でも生じます。
せん妄が疑われる特徴
- 始まりが急激
- 昼夜で症状が大きく変動
- 意識がぼんやりする
- 覚醒と混乱が入り混じる
- いつもと反応が違う
- 医療疾患の合併(感染症・脱水など)
せん妄は医学的治療で回復しますが、統合失調症は持続的なケアが必要です。
③ 発達特性(自閉スペクトラム症)の影響
以下のような様子が極端に強いと、統合失調症の幻聴や妄想と誤解されることがあります。
自閉スペクトラム症の特徴
- 感覚過敏
- 対人関係の困難
- 強いこだわり
- 空想・想像世界の広がり
鑑別のポイント
- 自閉スペクトラム症の思い込み
→“こだわり”や“思い違い”が中心で、実際に起きていることを正しく受け止める力は保たれています。 - 統合失調症
→今起きていることが現実なのかどうか判断できなくなり、不安や混乱が続いてしまうことがあります。
④ 解離・強いストレス反応
- 学校や家庭のストレス
- いじめ
- 家族内トラブル
などにより、現実感が薄れたり、記憶に抜けが出たり、人格の変化が出ることがあります。
思春期の女の子では、強いストレスで気持ちや意識が一時的にまとまらなくなる“解離”が起こり、それが幻覚に見えたり、混乱した行動に見えることがあります。このため、丁寧に見分けることがとても大切です。
診断と評価
小児の統合失調症は慎重な評価が必要です。次の点を総合的に見て判断します。
- 症状の始まり方と経過
- 幻聴・妄想の内容
- 思考のまとまり
- 行動・感情の変化
- 睡眠・食欲・生活リズム
- 学校での変化
- 発達歴
- 神経学的検査(必要に応じて MRI・脳波・採血・髄液検査)
診断は急がず、身体疾患を慎重に除外したうえで判断します。
治療と支援
治療は、医療的ケア・心理支援・生活環境支援を組み合わせて行います。
薬物療法
症状に合わせて抗精神病薬を用います。小児では副作用に注意し、少量から慎重に開始します。(脳炎を疑う場合は抗精神病薬が悪化要因となるため、鑑別が重要です。)
心理療法・心理社会的支援
- 病気の理解を深める支援
- 不安への対処
- コミュニケーション支援
- ストレスマネジメント
- 家族支援
学校との連携
- 集中力の低下
- 不登校
- 対人関係のトラブル
に対して、学校と情報共有し、負担を減らしながら少しずつ生活を整えます。
ご家庭でできる支援
- 病気として理解し、責めない
- 安全な環境づくり
- 生活リズムの安定
- 「怖い」「聞こえる」などの訴えをまず受け止める
- 医療機関への早めの相談
よくある質問(FAQ)
幻聴があると言います。本当に統合失調症でしょうか?
小児では、脳炎・せん妄・発達特性・ストレス反応でも幻覚が出るため、慎重な鑑別が必要です。
急に性格が変わってしまいました。統合失調症ですか?す
急激な変化の場合、脳炎・てんかん・せん妄など身体疾患の可能性を優先的に確認します。
抗精神病薬は必要ですか?
必要に応じて使用しますが、小児は副作用が出やすいため、少量から慎重に開始します。脳炎を疑う場合は別の治療が必要です。
発達障害とどう見分ければよいですか?
発達特性のこだわりや空想は“現実検討力が保たれている”のが特徴です。統合失調症では“現実とのつながりが揺らぐ”点が異なります。
学校にはどう説明すればよいですか?
集中力の低下、疲れやすさ、対人関係の難しさなど、具体的な困りごとを中心に共有します。
