- うつ病とは
- 気分循環症(Cyclothymia:気分の波が大きいタイプ)とは
- 双極性障害(Bipolar Disorder:躁うつ病)とは
- 原因と背景
- 子ども・思春期にみられやすい特徴
- 治療と支援
- よくある質問(FAQ)
子どもの「気分の病気」は、反抗期や性格では説明できない、脳の感情調整の仕組みがうまく働かなくなることで起きる医療的な状態です。小児〜思春期では、大人とは異なる形で表れやすく、見逃されたり「怠け」「わがまま」と誤解されてしまうことがあります。
代表的な病気として、
- うつ病
- 気分循環症(Cyclothymia)
- 双極性障害(Bipolar Disorder)
があります。
これらの病気はいずれも、
- 脳の感情の波を調整する力が不安定になる
- ストレス・学校・対人関係・生活リズムで悪化しやすい
- 「気持ちの問題」ではなく治療が必要な病気
- 適切な支援で改善が期待できる
- 子どもでは“行動や身体症状として現れやすい”
という特徴があります。
うつ病とは
うつ病は、気分の落ち込み・意欲の低下・興味の喪失・集中力の低下などの症状が続き、学校生活や家庭生活に大きな影響を及ぼす病気です。一時的な落ち込みや思春期の反抗とは異なり、脳とこころのエネルギーが低下している状態と考えられています。子どもの場合は気分をうまく言葉にできず、次のような「行動・身体症状」として現れることが多い点が特徴です。
- すぐ泣いてしまう
- イライラが増える
- 朝起きられず登校ができない
- 頭痛や腹痛などの体調不良が続く
気分循環症(Cyclothymia:気分の波が大きいタイプ)とは
気分循環症は、軽い躁状態(ハイ)と軽いうつ状態が、周期的かつ持続的に入れ替わる病気です。大きく落ち込むことは少ないものの、気分が安定しないことで日常生活に影響が出ます。
《“ハイ”の時期》
- 活動的で落ち着かない
- 話すスピードが速い
- 自信満々になる
- 睡眠が少なくても元気
- 衝動的な行動が増える
- 学校や家庭でトラブルが起きやすい
《“落ち込み”の時期》
- 疲れやすい
- 集中しづらい
- 登校が難しい
- 意欲が低下する
- 体調不良が続く
気分循環症は、双極性障害へ移行する可能性があるため、早期の評価と見守りが特に重要です。
双極性障害(Bipolar Disorder:躁うつ病)とは
双極性障害は、躁状態(激しいハイテンション状態)とうつ状態を繰り返す病気です。気分循環症よりも気分の上下が大きく、生活への影響も強くなります。躁うつ病(双極性障害)は “気分が大きく上がって大きく下がる” 病気、気分循環症は “軽い上がり下がりが長く続く” 病気です。
子ども・思春期にみられる躁状態の特徴
大人とは異なり、次のような行動・情緒の変化として現れます。
- 多弁・テンションが極端に高い
- 眠らなくても元気に活動する
- イライラが強く爆発しやすい
- 衝動的で危険な行動が増える
- ケンカやトラブルが急増する
- 注意・集中が続かない
- 実力以上のことが「できる」と強く信じ突き進む
学校や家庭での問題につながることが多く、早期の介入と環境調整が重要です。
原因と背景
気分障害の原因は1つではなく、生物学的・心理的・社会的要因が重なって生じると理解されています。
主な要因
- 脳内の神経伝達物質の変化(セロトニン・ノルアドレナリンなど)
- ストレスや環境の変化
- 睡眠リズムの乱れ
- 学校・友人関係・部活動のプレッシャー
- 完璧主義や敏感気質
- 家族性(遺伝的な傾向)
- 思春期に特有のホルモン変化
決して「甘えている」「やる気がない」「気持ちの問題」ではありません。脳のエネルギーが落ちてしまっている状態で、医療的支援が必要な病気です。
子ども・思春期にみられやすい特徴
大人と異なり、子どもは気分を言葉で表しにくいため、次のような“行動・身体症状”として現れることがあります。
- 朝起きられない・学校に行けない
- 遅刻・欠席が増える
- 疲れやすい・頭痛・腹痛が続く
- イライラが強くなる
- 眠れない/寝すぎる
- 食欲の増減
- 宿題や学習への集中が続かない
- 「どうせ自分なんて…」と否定的な言葉が増える
- 好きだった遊び・習いごとが楽しめない
- 何もかも面倒になる
これらが2週間以上続く場合、うつ状態の可能性があります。
診断について
診断は以下を総合的に判断して行います。
- 本人・保護者からの聞き取り
- 気分の変化の観察
- 睡眠・食事・生活リズムの状況
- 背景要因(学校・家庭・ストレス)の確認
- 必要に応じた心理検査
- 他の身体疾患の除外
診断は「レッテル貼り」のためではなく、適切な治療方針を決めるための大切なプロセスです。
治療と支援
治療は、お子さんの状況に合わせて複合的に行います。
心理・行動的アプローチ
- 認知行動療法(CBT)
- 感情の扱い方の練習
- ストレス対処(コーピング)
- 生活リズムの改善
- 学校・家庭での負担調整
環境調整
- 登校時間の工夫
- 課題量の調整
- 本人への負担が大きい場面の軽減
- 教員・支援者との連携
薬物療法
必要に応じて、抗うつ薬や気分安定薬、抗精神病薬などを少量から慎重に使用します。心理的支援・環境調整と併せることで効果が出やすくなります。
ご家庭でできるサポート
- つらい気持ちを否定せずに受け止める
- 「頑張りなさい」より「一緒に考えよう」の姿勢
- 生活リズム(特に睡眠)を整える
- できたことを一緒に確認し、過度な叱責を避ける
- 休息が必要な時期があることを理解する
- 体調・気分が悪い日は無理をさせない
- 安心できる家庭環境づくり
- 学校と連携し、負担を調整する
親御さん自身の心の負担も大きいため、保護者支援・相談も治療の大切な一部です。
よくある質問(FAQ)
思春期の反抗や怠けと、病気はどう違うのですか?
思春期の揺らぎと似て見えることがありますが、うつ病や双極性障害・気分循環症は「性格」や「怠け」ではなく、脳の感情調整がうまく働かなくなる医療的な状態です。生活に支障が出ている場合は、早めの相談が大切です。
気分の波が激しいのは性格でしょうか?
性格ではありません。気分循環症や双極性障害では、脳の調整機能が不安定になることで気分の波が生じることがあります。本人の努力や意志ではコントロールできません。
朝起きられないのは、うつ病と関係がありますか?
はい。うつ状態では睡眠リズムが乱れ、朝に身体が動かない・強い倦怠感が出ることがあります。これは「怠け」ではなく、症状の一部です。
子どもの双極性障害は珍しいのですか?
従来は少ないと考えられていましたが、現在では診断基準や研究が進み、適切に評価すれば一定数みられることがわかっています。ただし大人とは症状が異なるため、慎重な判断が必要です。
うつ病と、気分循環症・双極性障害はどう見分けますか?
ポイントは、“気分が上がりすぎる時期” (軽躁や躁症状)があるかどうかです。気分の波の経過は複雑なことも多いため、専門家による丁寧な評価が必要です。
病気は自然に治りますか?
放置して自然に治ることは少ないです。しかし、適切な治療・環境調整で改善が期待できる病気です。早めの相談が回復の鍵になります。
お薬は必ず必要ですか?
いいえ。軽症の場合は心理的支援や生活リズムの改善が中心です。双極性障害や気分循環症で生活に大きな影響がある場合のみ、慎重な薬物療法を併用します。
学校生活に戻れなくなるのでは?
適切な治療と環境調整を行うことで、多くのお子さんがゆっくりと学校生活へ戻っていきます。焦らず、その子のペースに合わせて進めることが大切です。
家族には何ができますか?
- 気持ちを否定せずに受け止める
- 休息を認める
- 睡眠・食事・生活リズムを整える
- 学校や支援機関と連携する
などが大きな支えになります。ご家族自身の負担も大きくなるため、保護者支援も治療の大切な一部です。
どのタイミングで受診すればよいですか?
以下に当てはまる場合は、早めの相談をおすすめします。
- 2週間以上、落ち込みや疲れが続く
- 朝起きられず学校に行けない
- 体調不良が習慣化している
- 意欲・集中力の低下が強い
- 「自分には価値がない」といった否定的な言葉が増えた
早期相談は、回復の第一歩になります。
