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チック症

チック症とは

チック症(tic disorder)は、本人の意思とは関係なく、同じ動きや音を繰り返してしまう症状です。症状は一時的に抑えることができても完全に止めることは難しく、無理に我慢するとかえって強く出ることもあります。発症は主に小児期(5〜10歳ごろ)で、思春期には軽くなるケースも多く見られます。症状は波があり、良い時期と悪い時期を繰り返します。

チック症は治るのか?

多くの場合、成長とともに症状は軽くなり、完全に消えることもあります。正しい理解と周囲のサポートがあれば、日常生活や学習への影響を最小限に抑えることが可能です。

チック症の種類と症状の特徴

チック症は大きく「運動チック」と「音声チック」に分けられます。

運動チック(Motor tics)

まばたき、顔をしかめる、首を振る、肩をすくめる、手足をピクッと動かすなどの動作。

音声チック(Vocal tics)

咳払い、鼻を鳴らす、喉を鳴らす、単語や短いフレーズを発するなどの音や声。

また、症状が単純な動作に限られる場合は「単純チック」、複数の動きや言葉が組み合わさる場合は「複雑チック」と呼びます。ジャンプをしながら声を発するなど、動作と発声が同時に起こることもあります。

チック症のタイプの中でも、特に有名なのが「トゥレット症候群」です。これは1年以上にわたって複数の運動チックと1種類以上の音声チックが同時に見られる状態で、通常のチック症よりも症状が複合的かつ持続的です。

チック症の症状は突発的で反復的な動きや音で、数週間から数カ月単位で内容が変わることもあります。緊張や不安、疲労時に強く出やすく、逆に遊びや趣味に集中しているときは軽くなる傾向があります。また、発症直前に「違和感」や「体の一部を動かしたい衝動」を感じる子もいます。

多くの場合、症状は数年以内に軽くなり、特に思春期には目立たなくなる傾向があります。ただし、一部では成人になっても症状が残ることがあります。また、季節の変わり目や新学期など環境の変化に伴って症状が一時的に悪化することもあります。

チック症の原因

チック症の原因は一つではなく、脳の働きや遺伝、環境などが複雑に関係しています。特に脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰な働きが関与するとされます。また、家族内にチック症や強迫症の既往があるケースも多く、遺伝的要因が考えられます。環境面ではストレスや疲労、生活リズムの乱れが症状を悪化させることがあります。さらに、一部では感染後の免疫反応や発達段階での脳の変化が関連する場合も報告されています。

併発しやすい疾患

チック症は単独で発症することもありますが、以下のような疾患と併発することも少なくありません。

  • ADHD(注意欠如・多動症)
  • 強迫症(OCD)
  • 学習障害(LD)
  • 不安症

これらがある場合、学習や生活面での困難が増えるため、早期の評価と対応が必要です。

チック症の診断

診断は医師による問診と症状の観察が中心です。国際的にはDSM-5などの診断基準が用いられます。他の疾患、例えばてんかんやジストニア、発達性協調運動障害などとの鑑別が重要です。特別な血液検査や画像検査で診断できる病気ではありません。

チック症の治療方法

チック症の治療は症状の程度や生活への影響に応じて行われます。

環境調整と生活習慣の改善

十分な睡眠を確保し、ストレスを減らすことが基本です。規則正しい生活リズムが症状の安定に役立ちます。

行動療法

習慣逆転法(チックが出そうになったら代わりの動作を行う)や、包括的行動介入(CBIT)と呼ばれる認知行動療法が有効な場合があります。

薬物療法

症状が強く生活に支障がある場合は、抗ドーパミン薬(例:リスペリドン)が使われることがあります。また、併発するADHDや不安症に対して薬を併用することもあります。

学校や家庭でのサポート

症状を無理に止めさせようとせず、周囲の理解を得ることが大切です。症状が出やすい場面や環境を避ける工夫も有効です。

家庭・学校での対応

チック症の子どもを支えるためには、単に「見守る」だけではなく、日常生活や学習の場で実際にどのような対応をとるかが大切です。次のような工夫や姿勢が、子どもに安心感を与え、症状の悪化を防ぐことにつながります。

1. 症状を叱らない、注意しすぎない

チックは本人の意思では止められないため、「やめなさい」「落ち着きなさい」と繰り返し注意するのは逆効果になります。

  • 家庭では、症状が出ても気にしすぎず、自然な態度で接することが重要です。
  • 学校では、授業中にチックが出ても叱責せず、そっと見守ることで子どもの自尊心を守れます。

2. 安心できる環境をつくる

チック症は緊張や疲労で悪化しやすいため、リラックスできる環境づくりが大切です。

  • 家庭では、十分な睡眠と規則正しい生活を心がけることが症状を和らげます。
  • 学校では、静かに過ごせる休憩スペースを用意したり、テスト中に別室受験を認めるなどの柔軟な配慮が役立ちます。

3. 担任や友人、家族など周囲に情報を共有する

チック症は「癖」や「態度の悪さ」と誤解されることが多いため、周囲の理解を得ることがとても重要です。

  • 保護者は、学校に症状を説明し、担任やクラスメイトに適切な理解を促すことが望まれます。
  • 学校側は、いじめやからかいにつながらないように、クラス全体に「体の仕組みで起こること」と説明できると安心です。

4. 得意なことを伸ばす機会を設ける

チック症のある子どもでも、スポーツや音楽、絵画など得意分野を持っていることが多くあります。

  • 家庭では、子どもが自信を持てる活動に積極的に取り組ませましょう。
  • 学校では、成果を発表できる場をつくることで、子どもの自己肯定感を高められます。

チック症に関するよくある質問(FAQ)

チック症は放置しても大丈夫ですか?

軽症で日常生活にほとんど支障がない場合、経過観察で様子を見てもよいとされます。特に小児期に発症したチック症は、成長とともに自然に軽快していくことが多いです。ただし、以下のような場合は早めに医療機関を受診しましょう。

  • 勉強や友人関係に支障が出ている
  • 症状が強くなっている、種類が増えている
  • 不安やうつ、強迫症状などが併発している
  • 保護者や本人が強い不安を感じている

早期に医師の評価を受けることで、必要な支援や治療を受けやすくなります。

大人になってから発症することはありますか?

まれですが、成人期に新たにチック症が始まることもあります。ただし、多くの場合は小児期から軽い症状があり、本人や周囲が気づかなかったケースです。成人発症では、ストレスや生活の変化、精神的負担が引き金になることがあります。また、脳の外傷や神経疾患、薬の副作用など、後天的な原因が関与することもあります。成人期に症状が出始めた場合は、他の神経疾患との鑑別が特に重要です。

チック症と癖の違いは何ですか?

「癖」は意識的または半ば無意識的に繰り返す行動で、意図的にやめることが可能な場合が多いです。一方、チック症は本人の意思とは無関係に起こり、抑えようとしても強い衝動や不快感が伴い、完全に止めることが困難です。さらに、チックは短時間で急に始まり、数週間から数カ月単位で種類が変わることもあります。この変動性も癖との大きな違いです。

ADHDとチック症はどのように関係していますか?

ADHD(注意欠如・多動症)とチック症は併発率が高く、特に小児期に多く見られます。両方がある場合、授業中の集中力低下や衝動的な行動が目立ち、学習や友人関係に影響が出やすくなります。ADHDがあるとストレスや疲労に弱くなり、その結果チック症状が悪化するケースもあります。このため、治療方針では両方の症状を総合的に評価し、必要に応じて薬物療法や環境調整を組み合わせます。

ADHDについて詳しくはこちら

チック症は遺伝しますか?

家族内にチック症やトゥレット症候群、強迫症の既往がある場合、発症リスクは高まります。これは遺伝的な要因による影響が考えられています。しかし、遺伝要因があっても必ず発症するわけではなく、環境要因や心理的ストレス、生活習慣が発症や症状の強さに大きく関与します。予防のためには、十分な睡眠、規則正しい生活、ストレスマネジメントが大切です。

チック症の子どもにやってはいけない対応は?

無理に止めさせたり、叱ったりすることは逆効果です。症状を意識させることで不安や緊張が増し、かえって悪化する場合があります。
避けたい対応の例:

  • 「やめなさい」と繰り返し注意する
  • 友達やきょうだいの前で叱る
  • 症状をからかう、笑いのネタにする

代わりに、症状があっても安心して過ごせる環境づくりと、周囲の理解を広げることが重要です。

チック症の検査はありますか?

チック症を特定するための血液検査や画像検査はありません。診断は、症状の経過や特徴をもとに医師が行います。必要に応じて、てんかんや脳腫瘍、運動異常症などの除外診断のためにMRIや脳波検査が行われることはあります。診断にはDSM-5などの国際的診断基準が用いられ、症状の種類、発症年齢、持続期間などが評価されます。

薬の副作用はありますか?

抗ドーパミン薬(例:リスペリドン、ハロペリドール)では、眠気、体重増加、手足のこわばり、動作が遅くなるなどの副作用が出ることがあります。副作用の程度や出やすさは個人差が大きいため、治療は必ず医師の管理下で行い、定期的な診察や血液検査で安全性を確認します。薬物療法は症状が強い場合や日常生活に大きく影響している場合に限られることが多いです。

チック症に効く食事やサプリはありますか?

特定の食事やサプリメントでチック症を根本的に治すことはできません。しかし、脳や神経の健康を保つために、栄養バランスの取れた食事は有益です。特に、ビタミンB群、マグネシウム、オメガ3脂肪酸を含む食品(魚、ナッツ、緑黄色野菜など)は、神経機能をサポートします。サプリメントを利用する場合は、医師に相談し、薬との相互作用や過剰摂取に注意しましょう。

トゥレット症候群はチック症とどう違いますか?

トゥレット症候群は、複数の運動チックと1種類以上の音声チックが1年以上続く状態を指します。通常のチック症よりも症状が複雑で、長期間持続するのが特徴です。また、ADHDや強迫症などの併発が多く、学習や社会生活への影響も大きくなりやすい傾向があります。治療や支援は長期的な視点で行われることが多く、学校や職場など生活環境全体での理解と協力が必要です。