不安障害とは
不安障害とは、子どもや思春期にみられる、年齢に比して強すぎる不安や恐怖が続き、生活・学び・人間関係に影響が出ている状態をいいます。「怖がり」「恥ずかしがり」という性格の範囲を超えて、
- 家から出られない
- 学校へ行けない
- 友達とかかわれない
- 声が出ない
- 強い身体症状が出てしまう
といった困りごととして現れることがあります。
不安障害にはいくつかのタイプがありますが、子どもでは特に ①母子分離不安 ②社交不安 ③選択性緘黙の3つがよくみられます。
不安障害の原因と背景
不安障害が生じる背景には、ひとつの原因だけがあるわけではなく、脳の働き・心の育ち・環境的経験が重なって関わっていると考えられています。具体的には、
- 不安を感じやすい脳の神経回路の反応性(例えば、「過度な回避反応」や「身体的な覚醒反応」の強さ)
- 幼少期からの安心できる養育関係や安全な環境の経験
- 学校・幼稚園・保育園での人間関係・変化への対応・集団での経験
ただし、不安障害は「親の育て方が悪かった」「子どもが甘えている」などの単純な理由ではなく、こころとからだ・環境が交錯して形作られる特性です。
なぜ早めの気づき・対応が大切か
不安や緊張を抱えたまま長く過ごすと、学校生活や友だちづくり・学びの機会に支障をきたし、「本来できたはずの経験」や「自己肯定感を育てるチャンス」が失われてしまいます。子どもは大人より環境変化の影響を受けやすいため、小さなつまずきが放置されると、次第に行動範囲や意欲が狭まり、悪循環に陥りがちです。
早期に気づいてサポートできれば、
- 不安の悪化を防げる
- 学校・家庭でのコミュニケーションがスムーズになる
- 自信を取り戻しやすくなる
- 問題行動(不登校・強い拒否反応など)へ発展するリスクを下げられる
という大きなメリットがあります。大ごとになる前に手を打つことで、子どもは「安心して挑戦できる状態」を取り戻し、毎日の生活や学びを前向きに過ごせるようになります。これは、本人だけでなく家族にとっても大きな負担軽減につながる重要なポイントです。
不安障害の主なタイプ
① 母子分離不安(分離不安症)
子どもが保護者から離れるときに、年齢以上に強い不安を示す状態を指します。
- 登校・登園のときに激しく泣く、離れられない
- 過度に「ママがいないと怖い」「何かあったらどうしよう」と心配する
- お留守番ができない
- 夜眠れずに何度も確認する
- 胃痛・頭痛・気持ち悪さが登校前に繰り返し出る
幼児期だけではなく、小学生・中学生以降でも続く場合があります。
② 社交不安(社交不安症/社会不安障害)
人前で話す・注目される・評価される場面で、強い緊張や恐怖を感じる状態です。
- 発表や音読が極端に苦手
- 新しい友達の輪に入れない
- 先生に話しかけられると固まる
- 人前で手が震える・顔が赤くなる
- 間違えることを強く恐れる
「恥ずかしがり」「内気」では説明できないほど、不安が生活を妨げている場合に診断を検討します。
③ 選択性緘黙(かんもく)
家庭など安心できる場所では話せるのに、学校・幼稚園・特定の人の前では「声が出ない・話せない」状態が続くものです。
- 家では普通に話しているのに、学校では一言も話さない
- 緊張で身体が固まり、うなずくことも難しい
- 声が出ないため、困っていることを伝えられない
- 話さないことで誤解され、支援につながりにくい
選択性緘黙は「頑固」「話したくない」ではなく、不安による “話せない” 状態であり、適切な支援が効果的です。
診断・評価について
不安障害の診断には、以下の情報を総合的に判断します。
- 生活・学校での様子
- 保護者からの聞き取り
- 子ども本人の気持ちや不安の種類
- 心理検査(必要に応じて)
- 周囲の環境・ストレスの状況
診断は、適切な支援方法を見つけるためのプロセスです。
治療とサポート
不安障害の支援には、心理的アプローチ・行動療法・環境調整・家族支援・薬物療法が治療となります。
主な支援方法
- 不安の強さを理解し、安心できる環境づくり
- スモールステップ(段階的に慣らす方法)
- 不安を和らげる認知行動療法(CBT)
- 学校・園との連携(配慮や声かけの調整)
- 緘黙の場合は「無理に話をさせようとしない」環境づくり
- 薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬、抗不安薬など)
多くのお子さんで、環境調整+段階的練習によって改善がみられます。必要に応じて、薬物療法についても相談していきます。
ご家庭でできるサポート
- 「不安が強いこと」を責めない・否定しない
- 不安を言語化する手伝いをする
- できたことを丁寧にほめる
- 失敗しても「大丈夫だよ」と安心感を伝える
- 新しい環境や予定は前もって伝える
- 朝のルーティンを整えて見通しを持たせる
- 緘黙の場合は「話す練習を強制しない」
ご家族の安心感は、治療においてとても大きな力になります。自信の低下や二次的な問題(登校しぶり・避け行動・気分低下など)につながることがあります。そのため、子ども・家族・学校・療育・医療が連携して、日常の中で「安心できる場面をつくる」「不安を減らす工夫を始める」ことが、将来にもつながる大切なステップとなります。
よくある質問(FAQ)
うちの子は甘えているだけではありませんか?
不安障害は「甘え」「わがまま」ではなく、様々な要因で不安が強くなりすぎてしまったことにより自身でコントロールできなくなってしまう疾患です。本人は“がんばろうと思っても身体が固まってしまう”“心配が止まらない”など、自分でもコントロールが難しい状態にあります。責めてしまったり、「大したことないよ」と言うと、不安がさらに強くなることもあります。まずは「怖かったね」「どうしたら少し楽になるかな」と気持ちを受け止めることが改善への第一歩になります。
朝だけお腹が痛くなるのは不安と関係ありますか?
はい、不安が強いと身体症状(腹痛・頭痛・吐き気)が出ることはよくあります。身体的検査で問題がない場合、不安が背景にある可能性があります。
選択性緘黙は「放っておけば治る」のですか?
多くの場合、自然に改善することは少ないです。ただし、適切な環境調整や段階的支援を行うと改善が期待できます。「話すことの強要」は逆効果です。
母子分離不安が強くて登校できません。どうしたらいいですか?
まずは責めずに気持ちを受け止め、体調の安定・朝の見通しづけを整えることが大切です。必要に応じて、学校との連携を行い、
- 玄関まで一緒に行く
- 校内まで付き添う
- 短時間の登校から始める
など、スモールステップを設定します。
社交不安は大人になっても続きますか?
支援なしで続く場合もありますが、早期にサポートを受けることで、多くのお子さんが対人場面に慣れていき、自信を取り戻します。
お薬は必要ですか?
不安障害の中心は心理的・行動的支援ですが、日常生活に大きな支障がある場合に限り、補助として薬物療法を併用することがあります。診察で丁寧に判断しますのでご安心ください。
どのタイミングで受診すべきですか?
以下の場合は受診をおすすめします。
- 不安で学校・園に通えない
- 身体症状が繰り返し出る
- 人前で話せず困っている
- 分離ができず生活が回らない
- ご家族が「このままでは難しい」と感じる
早期の相談は、改善への近道です。
