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強迫性障害

強迫性障害とは

強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)は、不安や恐怖のイメージが頭に繰り返し浮かび、それを打ち消すために同じ行動を繰り返してしまう病気です。特に子どもでは、

  • 不潔恐怖(汚れている気がして不安になる)
  • 不全感(“ちょうどよくない”“しっくりこない”と落ち着かない)
  • 初めてのことが極端に不安
  • いつもと違う状況に強い抵抗を感じる

といった独特の不安が行動に結びつき、手洗いや確認、数を数える儀式行為などを繰り返す姿として現れます。 本人は「やめたいのにやめられない」「しないと不安で仕方がない」と感じていることが多く、性格や甘えではなく、脳と心の不安処理が過敏になって起きる医療的な状態です。

子どもの心理:不潔恐怖・不全感・“初めて”や“違い”への不安

強迫性障害の子どもは、以下のような“強い不安”を抱えていることがあります。

不潔恐怖(汚染に対する恐怖)

  • バイ菌や汚れが極端に怖い
  • 触っただけで「汚れが広がった気がする」
  • 手洗いや入浴が終わらなくなる

周りが「きれいだよ」と言っても不安は消えません。

不全感(“ちょうどよくない”不安)

  • 左右がそろっていないと気持ち悪い
  • 数・順番・配置がズレると落ち着かない
  • 「完璧にしないといけない」と感じる

このような“違和感を消すため”に行動が繰り返されます。

初めてのことが怖い

  • 新しい場所ややり方に強い緊張
  • 「どうなるかわからない」が耐えられない
  • 予期せぬ変化に過敏になる

儀式行為で“安心を確保しようとする”ことがあります。

いつもと違う状況が苦手

  • 予定変更に強い抵抗
  • ルーティンの崩れに不安が増す
  • 気持ちの切り替えが難しい

この特徴は自閉スペクトラム症にも見られますが、強迫性障害では“不安を減らすために儀式行為になる”点が異なります。

強迫性障害の主な症状

強迫性障害では、次の2つがセットで起こります。

① 強迫観念(頭に浮かぶ不安)

  • 「汚れているかもしれない」
  • 「正しくないといけない」
  • 「悪いことが起きるかもしれない」

多くの場合、本人も「考えすぎだと思うけど止められない」と感じています。

② 強迫行為(不安を下げるための行動)

  • 過剰な手洗い・入浴
  • 何度も確認する
  • 数を数える、特定の順番にこだわる
  • 心の中で同じ言葉を繰り返す

行為をしても安心は一時的で、不安はすぐ戻るため“くり返し”が止まらなくなります。

自閉スペクトラム症の「こだわり行動」との違い

強迫性障害の行動と、自閉スペクトラム症のこだわり行動は外見が似て見えるため、鑑別が非常に重要です。

【似ている点】

  • 同じ行動を繰り返す
  • 決まった順番・方式にこだわる
  • 中断されると強い不安や怒りが生じる

【異なる点】

行動の“理由”が全く違う

強迫性障害 自閉スペクトラム症のこだわり
不安や恐怖を減らすためにくり返す 安心・興味・心地よさのために行う

本人が“困っているかどうか”が異なる

  • 強迫性障害 → やめたいのにやめられずつらい
  • 自閉スペクトラム症 → 本人は困っておらず、むしろ落ち着く行動であることが多い

診断・評価

診断では、以下を丁寧に確認します。

  • 行動の背景に「不安」があるか
  • 不潔恐怖や不全感の有無
  • 行動が生活にどれほど支障をきたしているか
  • 自閉スペクトラム症や注意欠如・多動性の特性との関係
  • 本人の困り感の強さ
  • 学校・家庭での状況

診断は、適切な支援方法を知るための第一歩です。

治療と支援

強迫性障害は、適切な治療により改善が期待できます。

心理療法

中心となるのは、認知行動療法(CBT) と 暴露反応妨害法(ERP) です。

  • 不安と向き合う練習
  • 「儀式行為をしなくても大丈夫」という体験
  • 不安への抵抗力を高める

小児にも効果が示されています。

薬物療法

不安が強い場合、抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、抗不安薬、抗精神病薬などを少量から用います。心理療法と併用すると効果が高まります。

環境調整

  • 行動を“叱って止める”ことは逆効果
  • 家族が儀式行為を肩代わりしない
  • 変更が苦手な子には、事前の見通しを丁寧に伝える
  • 学校と連携し、困りごとが悪化しないよう調整

ご家庭でできるサポート

  • まずは“不安”を受け止める
  • 「やめなさい」ではなく、専門的な支援と連動する
  • 強迫行為を代わりに行わない
  • できた場面を具体的にほめる
  • 生活リズムを整え、不安が高まりにくい環境づくり
  • 自閉スペクトラム症のこだわりとの違いを理解する

よくある質問(FAQ)

これは性格やわがままではありませんか?

強迫性障害は“不安を減らすために仕方なく行動を繰り返してしまう病気”であり、性格や甘えとは無関係です。

不潔恐怖や“ちょうどよくない不安”は治りますか?

認知行動療法(特に暴露反応妨害法)で改善が期待できます。早めの支援が有効です。

やめさせれば治りますか?

無理に止めると不安が強まり、悪化することがあります。専門的な手順で段階的に支援する必要があります。

自閉スペクトラム症のこだわりとどう見分ければよいですか?

「不安を打ち消すための行動か」「安心・興味のための行動か」が重要な手がかりです。両者が併存する場合もあり、専門家の評価が安心です。

学校での支援はどうすればよいですか?

叱責や強制は逆効果です。遅刻・手洗い・確認行為などが授業に影響する場合、学校と連携し調整を行います。

家族が疲れてしまいます…

強迫性障害は家族が巻き込まれやすいため、家族への巻き込み行動を減らす家族支援も治療の重要な一部です。

◎気分障害(うつ病・気分循環症・双極性障害など)
子どもの「気分の病気」は、反抗期や性格では説明できない、脳の感情調整の仕組みがうまく働かなくなることで起きる医療的な状態です。小児〜思春期では、大人とは異なる形で表れやすく、見逃されたり「怠け」「わがまま」と誤解されてしまうことがあります。代表的な病気として、

  • うつ病
  • 気分循環症(Cyclothymia)
  • 双極性障害(Bipolar Disorder)

があります。これらの病気はいずれも、

  • 脳の感情の波を調整する力が不安定になる
  • ストレス・学校・対人関係・生活リズムで悪化しやすい
  • 「気持ちの問題」ではなく治療が必要な病気
  • 適切な支援で改善が期待できる
  • 子どもでは“行動や身体症状として現れやすい”

という特徴があります。